企業のITインフラ(システム)を構築・運用する方法には、大きく分けて「オンプレミス」と「クラウド」の2種類があります。
しかし、「2つの特徴や違いがわからない…」「どちらが自社に適しているか判断が難しい…」という方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、オンプレミスとクラウドの特徴や違いについて説明します。
さらに、それぞれのメリット・デメリットを踏まえた向き・不向きも紹介するので、社内のITシステム構築や既存システムからの移行を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
オンプレミスとクラウドの特徴
冒頭で説明したとおり、オンプレミスとクラウドはITインフラを構築・運用する方法の種類です。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
オンプレミスとは?

オンプレミスとは、インフラ構築に必要なサーバーやソフトウェアなどを自社で保有・管理し、システム運用や保守管理なども自社で行う形態です。
なお、オンプレミス(on-premises)という言葉は「on the premises(構内で・店内で)」が語源で、「オンプレ」または「自社運用」とも呼ばれます。
クラウドが普及する2000年代までは、大半の企業がオンプレミスでインフラ構築・運用を行っていました。
近年ではオンプレミスからクラウドに移行する企業も増えていますが、オンプレミスならではのメリットもあるため、現在も多くの企業で採用されています。
クラウドとは?

クラウドとは、ベンダー(クラウドサービス提供事業者)が管理するコンピューター資源を、サービスという形で利用する形態です。
オンプレミスと違ってサーバーなどを自社に設置したり、自力でインフラ構築やシステム運用をしたりする必要はなく、サービスは必要なときに必要な分だけ利用できます。
クラウドは「雲(Cloud)」を意味し、インターネット(クラウド)上でサービスの利用やデータを保存できる仕組みを指す言葉です。「クラウドサービス」「クラウドコンピューティング」とも呼ばれます。そんなクラウドは、事業者が運用管理する範囲(サービスの提供範囲)によって「IaaS」「PaaS」「SaaS」の3種類に分かれます。
これは簡単に言うと、クラウドサービスをどう利用するかで分類したもの。クラウドサービスを利用する企業が、どこまでの範囲を自社で管理し、どこから外部のリソース(クラウドサービス)を利用したいかで選ぶと良いでしょう。
| IaaS | PaaS | SaaS | |
|---|---|---|---|
| 読み方 | イアース/アイアース | パース | サース/サーズ |
| サービス 提供範囲 | サーバーやストレージなど | アプリケーションの開発・実行環境 | ソフトウェア |
IaaS(Infrastructure as a Service)
IaaSとはInfrastructure as a Serviceの略で、システムの構築に必要なネットワークやストレージ、サーバー、各種機材などのインフラ設備が利用できるサービスです。
システム開発やアプリ開発に必要な素材と環境が揃っており、プログラミングの構築自体は自社で行う場合に適しています。つまり、企業の視点から説明すると、インフラ環境構築に必要な素材はクラウド事業者から借りて、それ以外の部分は自前でシステム運用する際に利用するということ。
なお、カスタマイズ性が高い反面、プログラミング構築の専門知識を有する人材が必要になります。
PaaS(Platform as a Service)
PaaSとはPlatform as a Serviceの略で、IaaSが提供する範囲に加えて、OSやミドルウェア、データベースなど、アプリ開発に必要なプラットフォームを利用できるサービスです。
つまり、アプリの開発環境が整っているため、インフラの設計や保守管理を気にすることなく、サービス開発やアプリ開発に専念できるという特徴があります。
アプリの開発は大規模なデータセンターに用意されたプラットフォーム上で行います。
SaaS(Software as a Service)
SaaSとはSoftware as a Serviceの略で、既に完成した(パッケージ製品化された)ソフトウェアをインターネットを介して利用できるサービスです。
目的に合わせて多種多様なサービスが提供されているという特徴があります。例えば、会計システム、チャットツールなど、業務効率化に役立つあらゆる機能が提供されており、有名なサービスで言うと、zoomやドロップボックスなどが挙げられます。
なお、通常のソフトウェア・アプリケーションと違って、インストールやメンテナンスなどは不要。サービス契約後アカウントを準備すれば、すぐに利用できます。
市場ではSaaSが主流となっているため、クラウドサービス=SaaSと認識している人も多いでしょう。
オンプレミスとクラウドを7つの観点で比較

オンプレミスとクラウドの最大の違いは、自社で設備を保有してインフラ(システム)を構築・運用するか否か。
要するに、オンプレミスの場合は物理サーバーを、クラウドの場合は仮想サーバーを利用しているということです。
このようにサーバー形態が異なることで、コスト・導入期間・カスタマイズ性・セキュリティといった、さまざまな面で違いが生じてきます。
そこで今回は、以下7つの観点から、オンプレミスとクラウドを比較してみました。
| 比較要素 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| コスト | 【導入費】高価 【維持費】固定 | 【導入費】安価 【維持費】月額定額制 or 従量課金制 |
| 導入期間 | 長い | 短い |
| カスタマイズ | 自由 | 制限あり |
| 拡張 | 難しい | 簡単 |
| セキュリティ | 自社のセキュリティ対策による | ベンダーによる |
| 障害・災害対応 | 難しい | 簡単 |
| 外部アクセス | 別途ネットワークを構築すれば可能 | 可能 |
オンプレミスとクラウドの違いを把握しておけば、自社にマッチするほうを選ぶ際に適切な判断ができるでしょう。
ここからは比較要素ごとに、2つの違いをさらに詳しく説明していきます。
オンプレミスとクラウドの違い1. コスト
| 費用項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 導入費用 | 高くなりやすい | 抑えられる |
| 維持費用 | 定額 | 従量課金 |
オンプレミスのコスト
一般的に、オンプレミスの導入費は高くなる傾向にあります。その理由は、自社でサーバー機器などをリースまたは買い取ったり、ソフトウェアの購入費やライセンス取得費がかかったり、インフラ構築を行う必要があるためです。
維持費に関しては、ほぼ固定なので毎月のコストが明確です。具体的にどのような費用がランニングコストとして毎月かかるかというと、サーバーの電気代・保守管理の人件費・ハードウェアの保有による固定資産税などが含まれます。ソフトウェアやシステムの利用自体にコストはかかりません。
そのため、長期的に運用する場合や使う機能や容量が多い場合は、オンプレミスのほうが費用を抑えられるケースがほとんどでしょう。
クラウドのコスト
一方、クラウドの導入費は安い傾向にあります。理由は、オンプレミスと違って自社でサーバー機器などを用意したり、インフラ構築を行ったりする必要がないためです。
そして、導入費・維持費ともに、月額定額制や従量課金制という形で契約プランに沿った利用料金を支払います。従量課金制の場合は、使う機能や容量が多くなればなるほど高額になるため注意しましょう。
クラウド利用料はベンダーによって差がありますが、これはサービス内容が関係しています。サービスが充実していれば、そのぶん料金も高額になりがちです。
コスト面に関しては、総合的な費用対効果を踏まえてトータルコストで比較することが大切でしょう。
オンプレミスとクラウドの違い2. 導入期間
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 時間がかかる | 最短即日 |
オンプレミスの導入期間
オンプレミスの導入には時間がかかります。これは機器の用意やシステムの構築といった、多くのプロセスを自力で行う必要があるからです。
さらに、サーバー機器などを調達する際、在庫状況によっては数ヶ月以上かかることもあります。
クラウドの導入期間
一方、クラウドの導入期間はかなり短く、最短即日で完了するケースもあります。
ベンダーが構築した既存のシステムを利用するため、オンプレミスのように機器の選定や購入、構築などの作業を行う必要がありません。
サービスを契約してアカウントを登録すればすぐ利用開始できます。ただし、サービスによっては構築は自社で行わなければならないものもあるため、その場合は1か月程度かかることもあるでしょう。
オンプレミスとクラウドの違い3. カスタマイズ性
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 優れている | 限られる |
オンプレミスのカスタマイズ性
オンプレミスはカスタマイズ性に優れています。
ソフトウェアやハードウェアの選択には制約が一切なく、必要な機器は全て自社で調達するからです。
状況や要望に合わせて柔軟にカスタマイズできるため、企業独自のシステムを構築したり、修正やメンテナンス時も自社の都合に合わせて対応可能な点は大きなメリットだと言えるでしょう。
クラウドのカスタマイズ性
一方、クラウドではカスタマイズの自由度はやや限られます。
その理由は、ネットワーク機器・サーバー機器・OSなどはベンダーが提供するものを使うからです。
ただし、オプション設定によりある程度のカスタマイズが可能になるため、自由度はサービス内容にも左右されるでしょう。
オンプレミスとクラウドの違い4. 拡張性
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 難しい | 簡単 |
オンプレミスの拡張性
拡張自体は可能ですが、ハードルは高めです。拡張するには、サーバーやアプリケーションを買い替え、設定などをやり直す必要があります。
つまり、保存容量や機能を増やすたびに、費用・時間・手間がかかってしまうということです。
クラウドの拡張性
拡張は簡単です。契約プランの変更やオプションの追加などにより拡張できます。
よって、最小のリソースから始めて、事業規模などに応じて容量を拡大・縮小することが可能です。
オンプレミスとクラウドの違い5. セキュリティ
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 対策次第ではかなり堅牢になる | ベンダーによるが、基本的には強い |
オンプレミスのセキュリティ
セキュリティ強度は自社のセキュリティ対策に比例します。というのも、オンプレミスの場合はセキュリティ管理も自社で行う必要があるためです。つまり、対策次第ではいくらでも厳格なセキュリティ体制を構築できるとも言えます。
また、オンプレミスはインターネットに接続せず、自社のローカルネットワーク内のみで利用するため、管理体制が適切であれば外部への情報漏えいのリスクも低いでしょう。
クラウドのセキュリティ
セキュリティ強度はベンダーによります。ただし、ベンダーの大半は基本機能としてセキュリティ機能も提供しているため、過度に心配する必要はないと言えるでしょう。
また、セキュリティ対策はベンダーが行いますが、クラウドはインターネットを介してサービスを利用するため、外部への情報漏えいを防ぐために自社でもセキュリティ対策を講じることが大切です。
オンプレミスとクラウドの違い6. 障害・災害対応
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 自社で行う必要がある | ベンダーにお任せ |
オンプレミスの場合
緊急時の負担は大きいと言えます。なぜなら、障害や災害の対応・復旧も基本的には自社で行わなければならないからです。また、さまざまなトラブルに対応するために、専門知識や技術を有する人材を確保する必要もあるでしょう。
トラブル発生時の対応・復旧には手間がかかりますが、自社のペースで対応を進めたり原因を解明したりできる点は魅力です。障害内容が明確になれば対策を講じることもできます。
ただし、自社で対応しきれないケースもあるでしょう。そのため、トラブル対応を自社でどこまで行うか把握し、対応できない場合はどの業者に依頼するかを検討しておくことも大切です。
クラウドの場合
緊急時の負担は少ないです。というのも、障害や災害の対応・復旧はベンダーが行うため、自社が何かをする必要はありません。基本的には、ベンダーからの復旧連絡を待つだけで済みます。
さらに、対応・復旧は専門知識を持つ担当者が行うため、自社で対応するのと比べ、復旧までの時間は早いです。ただし、復旧スピードはトラブルの内容やベンダーにもよります。
また、データはクラウド上に保存してあるため、災害でオフィスが被害を受けた際に影響が出にくいのも魅力。非常事態への対策であるBCP(事業継続計画)にも有効です。
オンプレミスとクラウドの違い7. 外部アクセス
| オンプレミス | クラウド |
|---|---|
| 別途ネットワークが必要 | 簡単にできる |
オンプレミスの場合
外部アクセスを可能にするには、別途ネットワークを構築しなければなりません。なお、別途ネットワークを構築するには多額の費用がかかります。
基本的には自社のローカルネットワーク内でしかアクセスできないので注意。そのため、税理士や社労士といった専門家と連携する場合は、必要なデータを書き出してやり取りする必要があります。
クラウドの場合
インターネット環境があれば、外部アクセスも可能です。インターネットを介してリアルタイムでデータを共有できるため、専門家と連携する際も便利でしょう。
ただし、クラウドの場合はインターネットを介して離れたところにあるサーバーにアクセスするため、オンプレミスと比べると通信速度はやや劣ります。
オンプレミスとクラウドのメリット&デメリット
上で紹介した特徴や違いをもとに、オンプレミスとクラウドのメリット&デメリットをまとめました。
オンプレミスのメリット・デメリット
| メリット | ・インフラを自社で占有できる ・毎月のコストが明確 ・システムを自社仕様にできる ・カスタマイズの自由度が高い ・他システムと連携しやすい ・セキュリティ強度を自社でコントロールできる |
|---|---|
| デメリット | ・導入までに時間とコストがかかる ・予算、期間、専門要員を確保する必要がある ・運用や保守管理の手間がかかる ・拡張や外部アクセスの設定が難しい |
クラウドのメリット・デメリット
| メリット | ・導入しやすい ・時間と人件費を削減できる ・災害に強い(BCP対策になる) ・運用や保守管理の手間がかからない ・拡張や外部アクセスの設定が簡単 ・常に最新状態のサービスを利用できる |
|---|---|
| デメリット | ・カスタマイズや他システムとの連携が限られる ・使った分だけ費用がかかる ・通信速度が遅い場合がある ・セキュリティ強度はベンダーによる |
両者のメリットとデメリットは、おおむね表裏一体の関係となっています。
オンプレミスorクラウドのどちらが向いている?

オンプレミスとクラウドのどちらが自社に適しているかは、業務の特性やプロジェクトの目的を考慮して判断することが大切です。
そこで、ここからはそれぞれに向いているケースを紹介します。
- 導入までの費用や期間を確保できる
- 自社に適したor特殊なシステムを構築したい
- 独自のカスタマイズをしたい
- 機密性の高い情報を扱う
- 既存システムとの連携が必要
- システム運用や管理体制を社内に整えられる
オンプレミスは、自社でサーバーやシステムを保有し運用する形態で、導入には費用や時間が必要です。
そのため、社内にシステムエンジニアがいる企業かつ、構築にかかる費用や時間に余裕がある場合は向いていると言えます。
また、業務に特化したシステムの構築や独自のカスタマイズが可能であり、機密性の高いデータを扱う場合には特に適しているでしょう。
つまり、自社の運用要件やセキュリティ基準に基づいた細やかな調整を行いたい場合はオンプレミスを選ぶと良いでしょう。
クラウドが向いているケース
- 導入に費用と時間をかけたくない
- 拡張やシステム変更の可能性がある
- 営業や在宅勤務などで外部アクセスを想定している
- 運用や保守管理に労力をかけたくない
- 常に最新状態のサービスを利用したい
- 社内リソースが限られている
クラウドは、外部のプロバイダーが提供するサービスを利用する形態であり、導入コストを抑えつつ迅速に利用を開始できます。
そのため、社内にシステムに強い人材がいない場合、構築にリソースをかけられない場合に適しているでしょう。
また、インターネットを介してどこからでもアクセスできるため、リモートワークや外部での営業活動に適しています。運用や保守管理の負担が軽減されるため、IT部門のリソースが限られている場合にも有効です。
さらに、プロバイダーが常に最新の状態に保つため、システムの更新やセキュリティ対策に頭を悩ませる必要がありません。
迷ったらハイブリッドクラウドがおすすめ
オンプレミスとクラウドのどちらにすべきか決められないときは、「ハイブリッドクラウド」を選ぶのもいいでしょう。
ハイブリッドクラウドとは、「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」を合わせて使うクラウドのことを指します。
プライベートクラウドとは、その企業が占有するクラウドの事を指します。さらにプライベートクラウドには、以下の2種類があり、どちらか一つを利用もしくは両方を利用することも可能です。
- オンプレミス型
自社の物理的なサーバーを使って、専用のクラウドを立ち上げて利用する形態。 - ホスティング型
クラウド事業者からサーバーのみを借りて、その企業専用のクラウドスペースを利用する形態。
パブリッククラウドとは、本記事で解説しているクラウドのことを指します。クラウド事業者が提供するクラウドサーバーを、複数の企業と共有して利用するものです。
つまり、ハイブリッドクラウドでは、「企業専用のクラウド」と「事業者が提供する共有クラウド」を合わせて使うことで、オンプレミスとクラウドの互いのデメリットを補いつつ両者のメリットを得られるのです。
また、ハイブリッドクラウドは条件に応じてオンプレミスとクラウドの併用方法を調整できます。
例えば、機密性の高い情報はオンプレミスで管理し、日常的な業務情報はクラウド上で管理するなどの使い分けが可能です。または、普段はオンプレミスを使用し、繁忙期でアクセスが集中する期間のみクラウドを活用するといった併用の仕方もあるでしょう。
もしくは、オンプレミスからクラウドに移行する際の第一段階として導入するのも、移行の影響を軽減できるためおすすめです。
ただし、ハイブリッドクラウドはシステム構成が複雑なので、運用には高性能なネットワーク環境・専門知識や技術を有する人材・十分な費用と時間が必要な点には注意。
オンプレミスやクラウドのお悩みはI-SEEDにご相談ください
- オンプレとクラウド、どちらを選ぶべきか判断できない
- システムの見直しが必要になったけど、問題点や改善点がわからない
- セキュリティ面でどちらが安全なのか分からない
このような課題は、「情報システム部門が十分な判断権限や知識を持っていない」場合に起きやすく、解決には自社システムの現状や課題を把握し、適切な構成を検討することが必要になってきます。
I-SEEDでは、システム開発やWebデザイン、Webマーケティングそれぞれの分野で幅広いスキルと経験を持ったスタッフが、お客様のお悩みをひとつひとつ細かくヒアリング。「使いやすく分かりやすいシステム」をモットーに、最適な解決策をご提案します。
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